ものづくり
「ものづくり」は日本製造企業の競争力の源泉である、との認識が定着している。産業界でも「ものづくり重視」を掲げる企業が増加している。一方で、そもそも「ものづくり」とは何かという点については明瞭な解釈が存在しない。「ものづくり」を「材料や部品に対し成形・加工・組立を行う固有技術あるいは熟練技能」と解釈する企業は多い。そのためそれらの企業では「ものづくり」の本質を「先端加工技術の獲得」や「匠の技の継承」と解釈している。また政府の政策においても「モノを買ったら助成」という旧来の産業政策が踏襲され、特に中小企業群で「新鋭設備の離れ小島」現象が発生している。
広義の「ものづくり」を「良い設計」を「良い流れ」で顧客までつなぐ汎用管理技術であると解釈すると、先進固有技術を産業の競争力や付加価値に結び付ける必要がある。つまり、設計情報をモノ(媒体)に作り込み、それを「良い流れ」で顧客まで届けることであり、その基本は「設計」である。設計情報からものづくりを広義に再解釈すると「ものをつくる」というよりは「設計情報をものに作り込む」という人工物創造の基本に立ち返るべきである。製品設計情報を創造する活動が「開発」、その設計情報を媒体に転写する活動が「生産」、その媒体を購入する活動が「購買」、そして出来上がった製品を通じ顧客に設計情報を発信する活動が「販売」である。この解釈に立てば、製造業、サービス業を問わず、「ものづくり」とはコンテンツ(情報内容)産業であると言える。
生産現場では「生産」とは「工程から製品へ設計情報を転写するプロセス」である。一般に「生産」とは「モノ」を変形して有用性を高めることだと定義されることが多いが、それは「生産」の一部分を表しているに過ぎない。本質的な意味では「生産」は「設計情報の転写」である。設計からものづくりを捉えると、顧客満足を生み出す設計情報を創造あるいは転写している時間の比率の最大化、つまり設計情報の転写が行われていない時間の最小化が強い現場を生み出す基本である。設計情報を精度高く開発から生産・販売へ流すことによって品質を高め、効率よく設計情報を流すことでコストを下げるのである。従って、開発、生産、販売で設計情報を高精度で効率的に流す仕組みを作り上げることが「ものづくり」の真髄である。そのためのフロントローディングであり、そのためのサプライチェーンマネジメントであり、そのためのERPでなければならない。
参考資料
- ^ Panasonic Technical Journal Vol.55 No.3 Oct. 2009 ものづくり経営の今後 藤本 隆宏